第2回 井戸端会議
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第2回井戸端会議「リサーチってなに? どうやるの?」議事録
会 場 space000(京都)
日 時 2006年5月15日
参加者 5名(アートNPO、幼児教育関係者、企業人)
ゲスト 山田創平
プロフィール 厚生労働省所管公益法人 財団法人エイズ予防財団リサーチレジデント。 専門は都市地理学、都市史、建築史、社会構成主義思想など。 名古屋大学大学院国際言語文化研究科修士課程修了、博士課程満期退学。 厚生労働省所管公益法人(社)国際経済労働研究所研究員を経て2006 年より現職。 現在、京都精華大学人文学部講師(非常勤)、京都産業大学全学共通教育センター講師(非常勤)、厚生労働省所管公益法人(社)国際経済労働研究所準研究員などを兼任。 前職の(社)国際経済労働研究所では、労働組合に対するコンサルティング業務に従事、社会心理学的手法、統計的手法による組織分析を研究。 現職では、公衆衛生、社会疫学の分野に社会学、地理学の研究者として関わり、地域コミュニティの動態に関して調査、分析を行い、同時に学会や政府、地方自 治体に対して提言を行っている。 講演歴等:京都精華大学連続講演会シリーズ2005「総合的な知の形成をめざして」など
▼ 議事録
リサーチが誕生するまで 〜客観性と主観性に関する議論の系譜から、リサーチが社会的に必要とされるまでの経緯。その研究法の確立の経緯と、思想的背景・概念など
山田
リサーチが誕生するまでの話をはじめると、長くなるので単純に言いますと、昔はリサーチなんてまったくありませんでした。リサーチが必要となるのは近代以降のことです。必要となってきた理由としては、人口を正確に知るというニーズが社会の中、とりわけ統治の側に発生したことがあげられます。
K
マーケティングとリサーチはニアリーイコールですか?
山田
そうです。「調査をする」という意味では二アリーイコールです。ただ、マーケティングとリサーチは目的が違います。リサーチは資本主義や国民国家の成立とともに発展し、第1次世界大戦以降のいわゆる大量殺戮の時代がはじまったことで、兵力となる人口の把握や敵国の戦力を計るなどの必要性が発生したことでさらなる発展をとげます。一方でマーケティングは、直訳すると「商圏調査」ですが、基本的に社会資本を含むあらゆる「富」の「移動」にフォーカスしているという点でリサーチに比べ狭義であるといえます。
リサーチは、時代を経るとともにいろいろなところに応用範囲を広げて行くことになります。そして、その発展の過程の中で、「リサーチそのもの」が研究の対象となってきました。
リサーチ、調査というのは、社会を客観的に把握しようという試みであるとも言えます。「客観は可能か」という問は後ほど論ずるとして、とりあえず自分一人で何かを考えていても分からないので、10人集まったら新しい考えが出るだろうというものに近いとも言えるでしょう。
そして「客観性」を追及する中で、いろいろな調査の手法が開発されました。
たとえば、人口がどのように変化し、通貨がどのように流通するかであったり、交通がどのように発達しているか、また地域の中で人はどのように動くかといったことが研究の対象となりました。たとえばマルクスは富の移動で全てが説明できると考え、それを信じていた人です。
このように研究者はいろいろな手法や視点を開発してきましたが、それでもほんとうに世の中の姿が捉えきれていないという実感を持つようになります。それを突き詰めて考えていくと、結局のところ、調査では純粋な客観性にたどりつくことはできないという結論に行き着くわけです。それは20世紀に入ってからのことです。ひとつ大きかったのは、ソ連など共産主義の崩壊という出来事であったといえます。「理論」の限界とか、「イデオロギー」の厄介さのようなことが認識されるに従って、現実はそんなに甘くないということがわかってきたといえるでしょう。
つまり、そのような観点から言うと、調査はどんな調査も主観性から逃れることができないということであって、それが前提になります。
誰かが調査をしようとするときに、そこに客観性を求めても意味がない、つまり、自分たちが知りたい事はわかるけれども、それでじつは世の中そのもの自体が説明できるわけではないということです。逆に言うと、「何を調べるか」が重要であって、「調べればなにかがわかるだろう」というものではないということです。
まず調べたいものがあって、はじめて成立するものがリサーチ、調査です。なんとなくいろんなことを調べてもひとつの答えがみえてくるわけではありません。
リサーチの方法、いろはの「い」 〜質的研究と仮説生成、量的研究へのプロセス〜
I
つまり、調査をはじめる前に、いくつかの仮説をたてておく必要があるということですか?
山田
その通りです。まず仮説を生成して、その仮説を立証するための調査を行うというプロセスを踏むことになります。ではその仮説の生成はどのように行うのかというと、主に「質的」に行います。つまり、なるべく枠組みにとらわれずに広くいろいろな「テキスト」を集めてきて、そこから仮説を生成するというプロセスが必要になるということです。まずいろいろな人の意見を聞きます。いろいろな人から出てくる、いろいろな声を集めて、そこから仮説になりそうなものをピックアップします。100人中50人が同じことを言ったとすると、それはもしかしたら仮説になる可能性があるわけです。そういうものをピックアップして、仮説になるものを抽出していきます。いろいろな人が「主観的」に感じているものを集めてくるということです。これが仮説生成のプロセスです。しばしば人文系の学問領域ではエスノグラフィという言いかたをしますが、エスノグラフィとは、つまりはそのようにして集められたテキストのことなのです。人々が主観的になんとなく感じていること、語っていることをまず集めてきて、共通する部分をピックアップする、それが仮説になるというわけです。このとき、はじめから地理学や心理学など学問領域を限定して調査を始めると、その枠組みの中でしか情報が集まってこなくなり、「オープン」な情報が集まらなくなりますので、注意が必要です。
このように、いろいろな人の話を聞いて、なんとなく理由が見えてきたら、次のステップではインタビューを行い、さらに踏み込んでいろいろと聞き出していくということが必要になります。先入観なしで話を聞いて、<なんとなく>なことが出てきた、次はその<なんとなく>見えてきたものの理由をインタビューします。そうすると、仮説生成のための軸が見えてくる可能性があります。その軸をみつけだし、調査の全体像を構想する一連の作業を「リサーチデザイン」といいます。リサーチデザインでは、ほかにどういう日程でアンケートを配布するかとか、アンケートに答えてもらうためにどういうサービスを提供するかということを考えることも必要です。この実質的な手続を考え、遂行することを「リサーチマネジメント」と言ったりします。 これには定型はありません。そのときどきの問題に合わせたものをつくることが必要です。
「オープンからクローズへ」という言い方をしますが、主観的な要素をなるべく排してとにかく話を聞きますよという「オープン」な状態から、ひとつの仮説に至ることができます。だから、最初のディスカッションはなるべくオープンな方がいいということです。
樋口
オープンとはどういうことですか?全く違う話題ということでもいいのですか?
山田
かまいません。そこから見えてくることもあります。
樋口
リサーチデザインでは、何かペーパーを作成した方がいいのでしょうか?
山田
そうですね。調査をする人たちの間でコンセンサスを得るためにも必要でしょう。それにはいろいろな方法がありますので、自分たちに合った方法を探してみてください。簡単でもかまいませんが、リサーチデザインは常に念頭に置いたほうがいいでしょう。まず「調査をしよう」と思い立ったときに最初のラフなリサーチデザインを作ります。これは本当にとりあえずのラフなものです。次にいろいろな人の話を聞きながらそれを修正します。修正されたリサーチデザインをもとにインタビューを行いさらに修正をします。インタビューには、常に十分な準備が必要になりますが、この準備のためにもリサーチデザインは常に考えておく必要があります。
インタビューを3回行うとした場合、全く同じことを聞いても意味がないので、ここではこれ、次ではこれと、だんだん踏み込めるようにしていくことが必要です。この2回目のインタビューで何を聞くかということは、1回目のインタビューをしたあとで考えます。この、前回の反省や、次回への展望を盛り込み、「何を明らかにしたいのか」を常に見失わないようにするためにもインタビューデザインは重要です。
樋口
インタビューをする時間がとれない場合も多いと思います。その場合はどうすればいいですか?
山田
みなさんがもっている主観的な仮説でかまいませんので、そこは聞いた方がいいでしょう。その場合、いきなり確信に飛び込んで話をします。
E
仮説が見つけ出せない場合は?
山田
聞き出せないひとつの理由は、「インタビューデザイン」をしていないということが考えられます。
山田
以上のような手続きでディスカッションとインタビューをやり、仮説が見えてきたとしましょう。とすれば、次にはその仮説を質問紙にのせて配布します。要するに、ここで出てきた仮説というのは、紙ベースのアンケートの項目になるということです。いきなりアンケート項目を書き出すというのは、ほんとうに聞かなければいけないことが落ちている可能性があります。逆に言えば、このプロセスを踏めば聞かなければいけないことはちゃんと聞けているはずです。これを「量的研究」「量的調査」といいます。たとえば、「組織の閉鎖性が問題だ」という仮説が生じたとしましょう。そうするとそれを質問紙にのせて配布すればいいということですね。しかし注意してほしいのは、ここで正しいか正しくないかということは出て来ないということです。「比較」という観点が重要になります。例えば「組織の閉鎖性」というものがアートNPOの評価の軸になるだろうという仮説が生じたとしましょう。ではそれを質問紙にしてアートNPOに答えてもらったとします。<組織の閉鎖性はどうですか?>閉鎖的であると思えば5段階の評価軸に丸をつけてもらいます。次に、その項目が「NPOの一般的な評価」とリンクしているかどうかを調べて初めてその「仮説」が正しかったかどうかが見えてきます。「組織が閉鎖的なNPO」が、同時に「社会からの評価も低い」となれば、NPOの評価軸として、「閉鎖性」がキーワードになりえます。ほかにも評価の軸はいろいろ考えられますし、複雑な統計手法を使えば「これこそがキーワード!」と言えるような、非常に有効な評価軸を発見することも可能です。
評価の軸は重要です。企業でいえば業績が軸になりますが、非営利組織では一概には言えないため、調べなければ分かりません。いままで説明してきましたように、いきなり「量的研究」をしようとしてもできません。まず「質的」に課題を抽出し、仮説を生成します。そして仮説を質問紙にのせて量的に配布して調べる、そうしてはじめて数字が出てくるということです。
樋口
リサーチによって何が見えてきますか?
山田
比較検討可能な、ある種の普遍性を帯びた結果が見えてきます。たとえば、質的にある地域のNPOは閉鎖的であると仮説が出たとします。そこで今度は量的に組織の閉鎖性について調べてみます。ある地域と別の地域で「閉鎖性」に関するアンケート調査をして量的に調べた結果を比較検討した結果、ある地域のNPOはやはり閉鎖的であったということが証明されます。いわば、リサーチによって「閉鎖性」というキーワードが抽出され、さらにリサーチによって「閉鎖性」と言うキーワードが比較検討可能な「評価軸」として確立されたと言えるわけです。企業の場合、閉鎖的なところがさらに業績が悪かったりすると、それは組織マネジメントとして閉鎖的であることはダメだという判断になったりします。
もちろん100%完璧な評価軸やキーワードの発見は不可能に近いと言え、その意味でどのような調査も主観的であることには変わりありませんが、主観的は主観的であったとしても、質的に仮説を生成してから量的研究を行い、その結果導き出す答えの方がまだ多少はましだと言えるでしょう。
I
こちらで生成した仮説をもとに質問紙をつくり、たとえば500世帯に配布した結果、自由回答の欄などに仮説からおもいっきり外れた回答があった場合、それらはどのように集計したり分析していけばいいのですか?
山田
それは仮説の練り方が甘かったということでもあります。そういう時は、再度テキストを分析して、そこから新たな仮説を抽出し、もう一度量的な調査をしなければいけません。
量的調査が、一般的にパイロット調査と本調査の2回行なわれるのはそのためです。まだ仮説が明確でなかったら、インタビューを重ねる必要があるかもしれません。どこで質問紙の量的な調査に切り替えるかを見極めることが必要です。
リサーチの方法、いろはの「い」 〜インタビューの方法
樋口
仮説に対する疑問もでてきそうですね。
山田
そこをうまいことやるのがマネジメントです。中でも一番力量を問われるのがインタビューのやり方ですね。
樋口
それには何かメソッドがあるんですか?
山田
「半構造化面接法」にはメソッドがあります。オープンなディスカッションやインタビューの方法は、いろいろな研究者が研究をしています。これはその成果のひとつです。
樋口
「半構造化面接法」は、「構造化面接法」と「非構造化面接法」の中間であると聞きますが、それぞれどのような違いがあるんですか?
山田
「構造化面接法」は、たとえば「ここ1年間で一番楽しかったことは何ですか?」と聞くのがそうですね。質問の中に、「1年」という縛りがかかっている。「楽しかったこと」という縛りがかかっている。よって答えられることは限られている。あらかじめ答えが限られるような質問をすることを「構造化面接法」といいます。
「半構造化面接法」は、例えば「最近どうですか?」などがそうです。「最近」であれば時間の枠はかかりつつもそれほど厳密ではない。答える側によって期間を設定することもできます。「非構造化面接法」は理論上はそうていが難しいのですが、「とにかく聞いていますので、何かしゃべってください」などがそうです。このように、縛りの大きさによって呼び方が異なってきます。いきなり「どう?」と聞いても何を答えて良いかわからないし、非常に答えづらくなります。だからといって、あまりに限定的なことを聞くと、オープンであるべきという原則が守られないことになります。重要なことを聞き落とす可能性がありますね。
「オープン」に情報を集められて、なおかつ相手が答えやすいように、ちょっとだけ答えやすい質問を埋め込んでおくのが「半構造化面接法」のやり方です。
このあたりをデザインしておくことが必要で、これがインタビューにおいて重要なことです。
樋口
つまり、「特定非営利活動促進法を遵守していますか?」という質問は、守っていないだろうという仮説にもとづいていて、もし守っていないという答えが多い場合には、それは法律に問題があるのかもしれないし、法律の運用に問題があるのかもしれない。あるいは社会の構造上の問題かもしれないという仮説となり、その仮説をさらにインタビューで深め、最終的に質問紙に反映させていくということですね。
山田
自分たちのたてた仮説が正しいかどうかというのは、インタビューや量的なパイロット調査のなかで検証していくことが重要です。そして最終的にこれが仮説なんだというものをアンケートに提示します。10万人にアンケートをやって出てきたデータをみても何もわからなかったというのは、一番重要な仮説がじつは聞けていなかったということです。
樋口
これはファシリテーターのメソッドと同じ?
K
教職者にもこのようなメソッドがあります。子どもたちに質問をするときに、とんでもない答えがかえってくることを想定して予測をしておきますが、それを越えるさらにとんでもない答えが出てきたときに、質問者が引出しをあけてあげられないとダメです。でも、大筋の流れは変らないというのが教職者のメソッドです。
I
そう。子どもに考えさせるために、答えを出させるような質問をしてはいけないというのがあります。答えに誘導させることが目的ではなく、いかに多くの答えを子どもたちから引き出すかというテクニックがあります。 そのメソッドを用いたのが、「対話型鑑賞法」です。絵画をみながらなんでもいいから感じたことを話してくださいというところから鑑賞する方法があります。その司会者であるナビゲーターが学ぶのはその方法です。
山田
まさにファシリテーターがやろうとしていることは、半構造化面接法です。介入はするが、誘導はしてはいけません。
樋口
これからアートNPOのリサーチをしようとしている私たちが獲得すべきものが見つかりました。私たちは、アートNPOのリサーチを行う段階で、全国を実際にまわっていろんな人に会おうと考えています。その時に、インタビューのテクニックが必要だということです。
山田
インタビューの方法にもいくつかあります。その中でも使えるのは、典型的な「グループディスカッション」です。
E
なにげなくやっていることでも、意図的にやることが必要だということですね。
樋口
グループディスカッションはどのようにしますか?
山田
これは、基本的にはステークホルダー、つまり同じ会社の人とか、同じコミュニティーの人とか、そういった共通の背景を持ったひとに有効です。そうすると基本的に同じような知識をもっている人が集まりますので、「グループダイナミクス」といわれる現象が起こるとされています。「グループダイナミクス」は、同じような知識をもっている何人かの人が集まって、ある共通のネタについて話をすると意外な結論に至るというものです。言ってみれば「盛り上がる」ということですね。 このグループダイナミクスを引き出すためにグループディスカッションを設定した方がいい場合もあります。
樋口
いい場合もあるということは、必ずしもそうとは限らないということですか?
山田
どのようにインタビューをするか、どの場面でどのインタビュー方法をチョイスするかは、デザインをする時に考えておく必要があります。
場合によっては、構造化面接法の方がいいときもあります。そして、共通認識としてもっていそうな問題の確認や本音を聞き出したい場合にはグループディスカッションは有効でしょう。
樋口
インタビューの方法はいくつか知っておいた方がいいということですね。ほかにどのようなものがありますか?
山田
グラウンデッドセオリーというのを知っておくといいでしょう。このセオリーの特徴は、「とにもかくにも先入観なしで話を聞きましょう」ということです。あるネタについて自由に話し合ってもらい、それをすべて録音してテープ起こしをします。そのテキストをもとに分析をするというやり方です。これは全てのインタビューにおいて共通するスタンスです。これは個人に対するインタビューでも有効ですが、グループインタビューなどでも重要な視点になります。
K
グループセラピー?
山田
共感的であることが求められるという意味では近いかもしれません。なるべく介入を行わず、オープンに情報を集めます。ほかにインタビュー法としてはナラティブアプローチなどがあげられますね。ナラティブとは語ってもらうこと。重要な点は、物語にして語ってもらうというところです。たとえば、「半生を語ってください」と言って語ってもらい、それを文章化する。エスノグラフィはフィールドにおける参与観察の結果としてのテキスト全般のことを指します。いろいろなインタビューや観察をしたテキスト全てのことで、そこから仮説が生成されます。いずれにしても、全てのインタビューで必ず取らなければならないプロセスは、これらインタビューしたことを文章にすること、記述することです。
S
インタビューのスキルを獲得するためには、練習が必要ですか?
山田
練習が必要ですが、経験が一番大きいです。これはアメリカで非常に深く研究されています。
樋口
パイロット調査を質問紙で行って、本調査をインタビューするという、逆の方法はありますか?
山田
あまり無いでしょうね。パイロット調査は親しいところにいくつか配って答えてもらうだけでもいいでしょう。
K
パイロット調査は内部調査も兼ねていますので、内部のメンバーに調査をして、それを外に広げて行くというのが本来の方法だと思います。
I
さきほどおっしゃっていたインタビューのテクニックを使えば仮説はある程度見えてくるんでしょうか?
山田
比較的見えてきます。最近はパソコンのソフトウェアにもなっているぐらい、メソッドが確立されています。
アートNPOリンクのアートNPOリサーチについて
山田
フィリップ・コトラーはご存知ですか?『非営利組織のマーケティング戦略』という書籍を出しています。ソーシャルマーケティングの手法について書かれています。ソーシャルマーケティングの調査手法は端的にいうと、自分たちの組織のミッションをまずは内部で明確にすることが大切で、そのミッションに従ってクライアントを見定めましょうというものです。そしてこのクライアントのニーズを調査によって発掘し、クライアントが何を望んでいるか、そのニーズにあったサービスを提供することが非営利組織の目的になります。
いま言ったプロセスの中で、評価が介入できる部分というのは、自分たちのミッションは自分たちで考えることとして、それ以外の部分です。つまり、クライアントが誰かと、クライアントのニーズの発掘ですね。
樋口
いまアートNPOリンクでは、全国のアートNPOがクライアントであるということは分かっていますが、では”どの”アートNPOかというのが見えていません。もちろん、彼らがいま望んでいること、課題としていること、つまりニーズが分からないということでもあります。
山田
この場合おそらくクライアントには2種類あると考えられます。アートNPOリンクの直接のクライアントであるアートNPOと、それぞれのアートNPOがサービスを提供する先である市民やアーティスト、そういう人たちもクライアントになります。
アートNPOを調査する場合、その二つのクライアントの調査が必要になってくるでしょう。アートNPOリンクが各アートNPOをみたときに、どう評価できるかということと、サービスを提供される側の市民が各アートNPOをどう評価しているかということです。アートNPOリンクが高く評価する団体であっても、市民は全然評価していない場合もあります。どこに評価の軸を置くのかを考える必要があります。
樋口
評価と調査は不可分離ですか?たとえば、評価を目的にしない調査はありえますか?
山田
定義上はないでしょう。客観的な調査がありえないということと同じことです。「答えは出しませんよ」「評価はしませんよ」ということ自体が答えになってしまうということです。
樋口
アートNPOがやっていることは、アートを通して社会的課題を解決しようということであったり、人と人のつながりやコミュニケーションを活性化させたりしようということだったりします。また、アート的な評価でいうと独創性やクリエイティビティが非常に重要視されますが、市民の参加の度合いにおいてはどうかとか、アート的に評価されにくい、すでにやりつくされたことであってもそれが行われた地域では極めて先駆的で画期的であったりということが起こってきます。こういうときに何をもって評価をすればいいのかわかっていません。
山田
いろいろな見方を用意したとしても、100個評価の視点を用意してもそれが全てではありません。絶対にかけてくることがあります。たとえばニーズを探るときに、いろいろな視点を用意したとします。視点がいっぱいあるからこれで全部見えているだろうというのは大きな間違いです。ですから最初は、そういう枠組みをとってオープンに、頭を空っぽにしてクライアント(調査対象者)と話をするところからはじめる。視点を探るために質的研究を行うということです。
そこではじめて評価の軸として、地理学的視点や歴史学の視点が必要だというように、何が大事かということを明らかにします。
いろいろな視点を用意すればいいのではなく、結果的にいくつかあればいいというようにしぼられてくる、そこから始める方がいいのではないでしょうか。
樋口
本日は時間となりましたので、次回はいま出てきたインタビューのワークショップを開催したいと思います。 本日はどうもありがとうございました。
以上